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静岡地方裁判所浜松支部 昭和58年(ワ)193号 判決

静岡県浜松市〈以下省略〉

原告

右訴訟代理人弁護士

名倉実徳

愛知県名古屋市〈以下省略〉

被告

東海交易株式会社

右代表者代表取締役

右訴訟代理人弁護士

岩田孝

堀井敏彦

右訴訟復代理人弁護士

内田龍

主文

一  被告は、原告に対し、金五〇一万八三四〇円及びこれに対する昭和五八年六月二六日から支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを一〇分し、その七を被告の、その余を原告の負担とする。

四  この判決は、原告勝訴部分に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は原告に対し、金七四二万六二〇〇円及びこれに対する昭和五八年六月二六日から支払いずみまで、年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  本案前の答弁

(一) 本件訴えを却下する。

(二) 訴訟費用は原告の負担とする。

2  本案の答弁

(一) 原告の請求を棄却する。

(二) 訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、被告に対し、名古屋繊維取引所におけるスフ糸の先物取引を委託し、別紙取引一覧表(以下「一覧表」という。)のとおりの取引(以下「本件先物取引」という。)を行った。(ただし、個々の取引の委託契約については、後記のような問題がある。)

右取引に関連して、原告は被告に対し合計八〇二万六二〇〇円の委託証拠金を預託し、被告はこれを全額手数料及び差損金にあて、後に原告に対し見舞金として六〇万円のみを交付した。

2  本件先物取引の具体的経過は以下のとおりである。

(一) 原告は昭和五七年一〇月二七日の夜、突然被告浜松支店従業員から電話を受け、今相場が上昇しているからとの理由でスフ糸の先物取引を勧められ、次いで翌二八日夕方、被告浜松支店従業員B及びC(以下それぞれ「B」、「C」という。)の訪問を受けた。

右Bらは「スフ糸が今上昇していて、今年中は確実に上がる。」「二週間みてもらえば五円の利益は充分とれる。」等と述べた。原告も短期間やつて利益が出るならと思い、三〇枚ぐらいでやつてみましようと答えたところ、「それくらいではだめだ。絶対上がるからもう少しやつてみろ。」と勧められた。さらに四〇枚ではと答えたが、「四の数字はよくないから五〇枚にしましよう。」と言われ、結局五〇枚を買建することになってしまった。

その後被告会社従業員らにより、前記のとおり本件先物取引が行われた。

(二) 原告は右取引を通じて、被告浜松支店従業員らの強引、執拗な手口により後記の損害を被った。

右従業員らの具体的な違法行為の主たるものは以下のとおりである。

(1) 被告従業員らは、原告に対し利益を生ずることが確実であると誤解させるべき断定的判断を提供して、その委託を勧誘している。

原告は、前記のとおり昭和五七年一〇月二八日午後七時ころ自宅に被告従業員B及びCの訪問を受け、「素人向けでスフの相場があるからやつてみないか。二週間くらいの間に一枚につき五円くらいの利益がとれる。」「今年一二月一杯までは確実に上がる。」などと短期間に確実に利益を得ることができるかのように申し向けられて勧誘された。その際被告従業員は原告に対し、先物取引について説明するパンフレットは交付したものの、損をすることもある等の説明は全くしなかった。

(2) 被告従業員らは、たびたび無断取引をした。

一覧表2の昭和五七年一〇月三〇日の一〇枚の買建については原告の留守中、被告浜松支店の営業課長D(以下「D」という。)から原告の妻E(以下「E」という。)に電話があり、朝一番で買っておきましたとDから事後連絡があったものである。原告はこれに異議をとなえたが、聞きいれられなかった。

また、一覧表8の昭和五八年一月一四日の五〇枚の買建以降の時点の取引は、最後の二月七日の手仕舞(一覧表7)以外はすべての取引が原告に無断で行われ、取引の後に原告に事後的に連絡がなされたのみであった。

(3) 被告従業員らは、原告に対し融資をあっせんし、また両建を勧めた。

一覧表2の昭和五七年一〇月三〇日の買建以降相場はしばらく上がって後下がり出したので、原告は「上がると言ったのに下がっているのはどういうことか。」と被告浜松支店に電話をした。すると、Dが原告宅を訪問し、「これからはBに代わって私が面倒をみるから。」と述べ、両建することを勧め、「両建しておけば絶対損はしない。一〇〇パーセントもうかる。」「両建して時期が来たら片方を外して、あなたには損をさせないようにし、今年中には一〇〇万円くらいの利益を付けてお返ししますから。」等と述べた。

これに対し、原告が委託証拠金がないと答えると、Dは、不動産を担保にしていわゆるサラ金ではないがお金を貸してくれるところを紹介するから、そこから借りて両建をするよう勧めた。

原告がさらに「不動産まで手を付けてやりたくない。それをやるくらいだったら今のを半分にしてやってほしい。」等と述べると、Dは「そんなことをしたらなんにもならない。ここは絶対借りてやらねば駄目だ。」「それならわしは知らん。わしだって浜北の人間で子供も生まれるからそこらは信用してほしい。わしもこの年で課長になれたのはそれだけの実績があってなれたわけだからその点を信用してくれ。」等と述べ、午後一一時ころまで執拗に借財して両建することを勧めた。

原告もDがそこまで言うならと思い、自己所有の土地家屋を担保に和光商事株式会社(以下「和光商事」という。)から四五〇万円を借り入れて両建をすることにした。

和光商事へはDが連絡を取り、その結果和光商事社員が原告方を訪れて、借入がなされ、これを委託証拠金に加えて同年一一月五日に一覧表3の六〇枚が売建され、六〇枚ずつの両建となった。

右両建の後相場は上がりだしたので原告が被告浜松支店に電話したところ、Dが不在ということでCが電話に出て「今度は絶対上がる。今まで大手が入っていて邪魔をしていたが、今度それが抜けたから絶対上がるからここは売を仕切って買一本でいかなければだめだ。そのくらいの損金のマイナス分はとれる。」等とDと全く反対のことを述べた。そこで、原告はDに相談しようと思い、その夜再び電話したが、やはりDは不在との返事であり、一方ではCがさらに強く勧めるので結局売建玉を手仕舞することを承諾し、同月一六日に一覧表3の売建玉六〇枚を手仕舞してもらった。

ところが、その後相場はしばらく上がってからまた下がった。そこで原告が被告浜松支店に電話したところ、今度はDが出た。原告が「この前Cは上がるようなことを言っていたけど、下がってきたではないか。」と文句を言ったところ、Dは「わしの言うことを聞かないからそういうことになるのだ。」と答えた。原告は怒つて前記一〇枚の無断売買の点を含め、被告本社管理部に苦情の電話をした。

また、同月後半に、原告はDに自宅へ来てもらった。するとDは、「わしの言うことを聞かなかったからこうなったんだ。わしは下がると思っているから両建をしろ。」と原告に勧めた。そして、同月二七日に一覧表1の買建玉五枚と、同表2の買建玉一〇枚が手仕舞され、同時に同表4の四五枚が売建され両建され、再び四五枚ずつの両建となった。その後、一二月二日には、今度は被告浜松支店長F(以下「F」という。)の勧めにより一覧表1の買建玉四五枚を手仕舞し、同時に同表5の三五枚の売建がなされた。

さらに原告は、同年一二月一六日にDから「今まで私はずっと下がると言ってきたが、今度は絶対上がるから。」と勧められた。原告はDにやや不信をもっていたので、被告本社のG、同浜松支店のHの意見を電話で聞いたが、やはり上がるという返事であった。そこで、原告は一覧表4及び5の売建玉合計八〇枚を手仕舞してもらい、同表6の八〇枚を買建してもらったが、しばらくして再び相場が下がって来た。原告はDに苦情を言ったが、Dは「私の言うことを聞かないからだ。」と答えていた。

そこで、原告はこれですべての取引を終わりにしようと考えて被告に電話したところ、支店長のFが出たので、「不動産を担保にした損失分(四五〇万円)だけでもなんとかならないか。」と告げたところ、「不動産くらいの分だったら大丈夫。」という軽い返事を受けた。その前にDからも「ここでやめる気がなければもう一度和光商事から借り入れる枠があるからそれを使ってやってみるか。」と言われていたので、原告は、和光商事からさらに二五〇万円を借り入れた。なお、この時もDから和光商事に対し連絡がとられている。

そして、右Fの勧めにより、同月二二日一覧表6の買建三〇枚が手仕舞され、同表7の五〇枚が売建され、三度目の両建(五〇枚ずつ)となった。その後昭和五八年一月一二日には、原告は、自らの意思で一覧表6の買建残五〇枚を手仕舞した。

さらに、昭和五八年一月一四日には一覧表8の五〇枚が原告に無断で買建され(当日夜、Dから原告に事後的に連絡があった。)四度目の両建(五〇枚ずつ、ただし限月は異なる)となった。

以上のとおり、被告従業員らは、高利金融業者である和光商事と原告間の融資のあっせんをし、同時に原告に対し言葉巧みに両建を勧めて取引を継続させて手数料収入を増大させたものであり、取引の経過からみて同人らは原告が前記土地家屋を失ってもかまわないと考えていたものと思われる。

(4) 被告従業員らは無意味な反覆売買をした。

一覧表及び(3)に示されたとおり、原告の焦りにつけ込んで、短時日の間に多数、多額の取引を行い手数料をかせいでいる。

(5) 被告従業員らは、意図的に原告の担当者を変え、それぞれが原告に対し異なった指示を与えて混乱させ、一覧表及び(3)に示されたとおり反覆売買をさせた。

原告は前記のとおり、最初B、Cに勧誘され、値が下がったところで営業課長のDが「今後は私が面倒をみるから。」と言って原告の自宅を訪れ、両建を勧めている。

ところが、その後相場が上がりだすと、Cが絶対上がるからと買建を盛んに勧め、かつ、その間は、右Dは不在であるとして原告と接することを避けている。

さらに、その後また相場が下がったところで、Dが出て「わしの言うことをきかないからそういうことになるのだ。」等と述べて、さらに両建を勧めている。

また、昭和五七年一二月二日の取引に際しては、支店長のFが来て指示を与えている。

同月一六日の取引の際は、Dが今度は値が上がるからと買建を勧めている。

その後相場が下がったところで、Fが不動産を担保にした分くらいなら取り返せると述べて、さらに原告に和光商事から借金をさせて両建させている。

3(一)  前記の経過に鑑みると、被告の前記従業員らは、原告の利益をはかることを全く顧慮しておらず、その目的は要するに原告を言葉巧みにだまして取引額をつり上げ、取引を継続させることにより被告に対し多額の委託証拠金を預託させ、かつ手数料をかせぐことにあるというべきである。

被告会社従業員らの前記行為のうち、無断取引が許されないのはもちろんであり、さらに同人らの行為は不当な勧誘の禁止(商品取引所法九四条一・二号、名古屋繊維取引所受託契約準則一七条一・二号)及び一任売買の禁止(同法九四条三号、同準則一八条一・二号)にそれぞれ該当するほか、商品取引員の禁止事項である左記事項等に該当する。

(イ) 相手の都合を無視した深夜の訪問や行き過ぎた勧誘

(ロ) 融資のあっせん

(ハ) 無意味な反覆売買(いわゆる「コロガシ」)

(ニ) 両建(同一商品、同一限月について売り又は買いの新規建玉をしたあと―または同時―に対応する売買玉を手仕舞いせずに両建するよう勧める。)

(ホ) 意図的な担当者の交替や混乱を与えるような形での各担当者による異なった相場観の示唆

さらに、被告の行為は右にとどまらず、違法な詐欺的行為に該当すると言っても過言ではない。

(二)  また、被告は、本件以外にも浜松支店において全くの未経験者に対し積極的に取引を勧め、いったん取引を始めると、従業員によって異なったアドバイスをして客を混乱させ、取引の終了を申し出てもこれに応じず、借財までさせて取引を継続させ、結局多額の損害を生じさせている事案が数件ある。

(三)  原告の各取引日における被告の名古屋繊維取引所での原告取引の商品と同一商品の売買数量の総量を検討すると、奇妙なことに売・買の各数量がほとんど同数である。これは、前記の他の被害者の場合もすべて同様である。

本来、被告は依頼者の利益を図るため、相場についての情報に基づき統一的な判断、見通しの下に、これに取引を勧めるべきものである。そうであるならば、ある時期をとってみるならば、被告としては、原則として売・買のいずれか有利と考える方を主に取引することになるはずである。依頼者独自の相場観により取引する場合があるとしても、右のように結果として売・買ほぼ同一数量というのは極端に過ぎる。

これは、被告が依頼者の利益を無視して、もっぱら自己の利益のために取引をしていることを示すものである。

すなわち、被告は顧客の注文を商品取引所に取り次ぐ際に同時に常にこれと相対する建玉(いわゆる向い玉)をしているのである。こうしておけば顧客の損失は反面常に被告の利益となる。

被告は、原告を操縦し、多額の委託証拠金を預託しての両建を勧めて身動きができないようにしたうえで取引を継続させ、最後には無断取引を行い、原告の損失(反面被告の利益)を決定的にしたのである。

向い玉はいわゆる客殺しの取引として無意味な反復売買(コロガシと呼ばれる。)と共に典型的なものであり、被告の違法性は大きい。

また、右のように売・買同一数量の場合被告としては値洗制度による差金決済が不要となるが、被告はこれを利用して、原告を含む顧客の委託証拠金をもつて被告会社の経費に充当していたものである。

(四)  以上のとおり右被告従業員らは、被告の事業の執行につき、右のような違法な行為を行い、よって故意に原告に損害を被らせたものであるから、被告はその使用者として、右行為の結果原告が被った手数料及び差損金合計八〇二万六二〇〇円の損害から原告に対し見舞金として交付した六〇万円を控除した七四二万六二〇〇円を原告に対し賠償すべき義務がある。

よって、原告は、被告に対し、不法行為に基づき、右損害金七四二万六二〇〇円及びこれに対する本訴状送達の日の翌日である昭和五八年六月二六日から支払いずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二  被告の本案前の主張

本件については、訴え提起前に和解により不起訴の合意がなされているのであるから、本訴は却下されるべきである。

不起訴の合意が有効に成立するためには、その当時、当事者が、紛争の事実を認識していたこと及び訴訟等法的手続きをとりうることを認識していたことが必要であるが、

(イ)  原告は、被告本社のI管理部長(以下「I」という。)と話し合いを行った際、本件訴訟において、原告が被告の不法行為として主張しているのと同一の事実、すなわち無断売買があったということ、融資のあっせんをしたこと及び担当者によつて相場の指示が違うということ等を話しており、本訴で争点となっている各事項について明確に認識していたことは明らかである。

(ロ)  次に、訴訟等法的手続きをとりうることの認識については、原告は、本訴において右Iに対し誠意を示さないなら裁判も考えていると話した旨明確に供述しており当時原告が被告と話し合いができないときには訴訟を提起する意図を有していたことも明らかである。

(ハ)  さらに原告は、念書(乙第一号証―以下「念書」という。)作成時点で、すべて納得していた旨供述しており、また右念書についても、被告のIが原告に作成を強要したようなことは全くなく、円満に話し合いがなされた結果作成されたものである。

右のとおり、本件における不起訴の合意は原告の明確な認識の下になされたものであって、被告が原告の無知に乗じたなどということは全くない。

なお、原告は被告から受領した六〇万円を「見舞金」と称し、被告の損害賠償義務とは無関係であるとの主張をしているが、右念書の記載からも明らかなように、これはこの金額の支払いをもって、すべて解決するという趣旨での金額、すなわち和解金にほかならない。

三  被告の本案前の主張に対する原告の答弁

1  被告主張の合意の法的性格は、請求原因で述べたとおり見舞金契約に過ぎないと解すべきである。

原告は本件先物取引終了後、被告従業員らの言動、原告に対する勧誘方法等に不信をもち、被告管理部長のIに不満を述べた。

これに対しIは、営業の担当者から事情を聞いたが、原告の申立について、信ぴょう性が薄く会議の結果これについて被告の責任を認めることは出来ない、逆に訴訟を起す用意がある旨回答した。

原告は先物取引については全くの素人であり、この時点では、どのような資料、情報に基づき、どのような形で取引が行われるのかも全くわからず、また、被告従業員らの取引方法に不満はあったものの、具体的にどのような点が問題となるのかもわからなかった。

このような状態で、原告は、Iから「被告の責任は認め難いけれども、会社を説得してみようと思うがどうか。」と告げられたので、Iを信用して被告の説得を依頼したのである。

その際、Iから「お金がほしければ窮状のみを訴えた手紙を出すように。」と告げられて、これ(甲第一号証)を被告あて送っている。

その結果原告は、被告の用意した文案通りの文言を記載して念書を作成し六〇万円を受領したのである。

Iは、一貫して、原告に対し、「損害賠償としては払えない。」「見舞金としてしか出せない。」旨告げていたものである。

よって前記の合意及びこれに基づく六〇万円の支払は、被告の法的責任には触れず、その損害賠償義務を前提とせずになされたものであって、一種の見舞金契約であり、これによって被告の原告に対する損害賠償債務を消滅させる趣旨の和解契約及び不起訴の合意ではなかったことは明白である。

2  また、右念書の作成及び六〇万円の支払がもし被告の主張するような和解契約及び不起訴の合意であるならば、これは公序良俗に違反するものとして無効である。

本件先物取引における被告従業員らの違法、不当な行為は目にあまるものがあり、被告の損害賠償義務は明白であるところ、従来の商品先物取引被害についての判例における損害賠償認容額に比すると、六〇万円はあまりに低額であることは明らかである。

すなわち、被告は原告の無知、未経験に乗じて、原告に対し、極端に低額の金員を支払って、原告の損害賠償請求権を放棄させる契約を締結させたものであり、右契約は公序良俗に違反するものとして無効である。

四  請求原因に対する認否

1  請求原因1については、六〇万円の交付の趣旨が見舞金であったことのみを否認し、その余は認める。

2  同2(一)については、原告主張の日にB、Cが原告方を訪れたこと、その後原告が被告に対し一覧表記載のとおりのスフ糸の先物取引を委託したことはいずれも認め、その余は争う。

3  同2(二)(1)については、Bらが原告主張の日に原告に対し先物取引について説明するパンフレットを交付したことは認め、その余は否認する。

4  同2(二)(2)については、原告主張のような取引がなされたことは認めるが、無断取引であることは否認する。

5  同2(二)(3)については、被告従業員らが原告に対し、両建について説明し、また値動きの予想について示唆を与えたこと及び原告の言及している各取引がなされたことはいずれも認めるが、その余は否認する。

被告従業員らは、原告に対し、両建のことや値動きの予想について説明はしているが、原告が主張するような断定的なものではなく、あくまで助言ないし説明であって、最終的な注文は原告自身が決しているものである。

6  同2(二)の(4)(5)については、原告の主張する各取引がなされたこと、原告の主張する被告従業員らが原告に応待したことはそれぞれ認めるが、その余は否認する。

7  同3(一)の原告の主張はいずれも争う。

原告は被告の取引方法が違法であると主張するが、被告の取引方法に違法性のないことを以下のとおり、請求原因2及び3(一)に即して主張する。

(一) 未経験者の原告を取引の相手方としたことが違法であるとの点について

被告は、原告から取引の委託を受ける際に、商品先物取引の仕組み等について十分説明を行っており、原告はこれらの説明を受けたうえで、自己の判断に基づいて取引を開始したものである。原告はあたかも商品先物取引をすることによって損をすることはないと考えたかのように主張するが、被告は取引開始に際し、口頭の説明に加えパンフレットを提示し説明のうえ交付している。このパンフレット(商品取引委託のしおり)の見開き第一頁には、「商品取引は投機です。」と大きく記載されており、また同箇所で証券取引との差異が図解によって説明されている。また同しおり二頁一四行目には見込み違いの売買により欠損となることも明記されており、同三頁五行目には「投機家の一人として商品取引の場にのぞむ意味を十分にお考えいただきたいのです。それは危険負担を承知の上で利益を追求する立場である、ということです。」と記載されているのである。このように初めて取引を開始する者のために、わかりやすく商品取引の仕組みを説明するための資料を提供しているのであり、被告従業員らが、原告に対し、取引を行うことによる利点を説明したことのみを取りあげて、違法であるということはできない。

(二) 断定的判断の提供をいう点について

(一)で述べたとおり、被告従業員らは取引の開始に際し前記パンフレットを交付しているのであり、同人らが取引の利点を説明したとしても、確実に利益があがるとの断定的判断を提供したことにはならない。

(三) 無断取引をいう点について

原告は、一覧表2の一〇月三〇日の一〇枚の買建及び同表8の一月一四日の五〇枚の買建以降の取引(最後の手仕舞玉を除く)は無断売買であると主張するが、右一〇月三〇日付の一〇枚の買建については、Dが原告の妻Eから注文を受けたものであり、無断売買ではない。その後原告本人からも了承を得てその分の委託証拠金を受け取っているのであり、その際にも無断売買であるとの苦情は全くなかった。

また、右の取引を含め、昭和五八年一月一四日以降の取引についても、原告からはその都度送付される報告書及び残高照合通知書について被告管理部等に対し何等の異議も申立てられたことはないのである。

(四) 融資のあっせんをし、両建をすすめたとの点について

両建そのものは、相場の様子をみるために有効なものであり、その時点の状況により、顧客に対し、両建の方法があることを説明することも違法とは言えない。

本件で原告が両建を行ったのは被告従業員らが両建の方法を示唆したのに対し、自らの意思で行ったものであり、利益を確保したいという原告自らの判断によるものにほかならない。

また、両建てをするについて原告が和光商事から借り入れをしているが、被告従業員らは原告の申出により金融業者を紹介したにすぎず、その借り入れには一切立ち会い等をしていないのでありあっせんということには当たらない。しかも、二回目の借入れの際には、和光商事から「そんなに借りて大丈夫か。」との趣旨の話があったにかかわらず、原告は、あえて借り入れをしているのである。

(五) 無意味な反復売買をいう点について

原告が行った各取引は、そのつど理由があって行ったものであり、「無意味」とはいえない。原告は、取引開始以後自ら新聞で値動きを追い、そのために日本経済新聞を新たに講読しており、これにより、ある程度の相場の感じを持つことができ、被告従業員らの言葉も全面的に信じていたわけではない旨供述しているし、値動きを見て自分の方から被告に電話しているのである。

前記(四)の両建を含めて原告の建玉が繁雑であるというのであれば、それは原告自らの気の小さい性格によるところが大きく、被告従業員らはそれに応じて相談に乗り、取引を行ったにすぎない。

(六) 意図的に担当者を代え、異なった指示を与えたとの点について

被告が意図的に担当者を変えたという事実はない。

原告とのやりとりが、平の外交員から課長、課長から支店長へと移ったのは原告がそれを求めた結果である。

8  同3(二)の事実は否認する。

9  同3(三)については、原告の各取引日における被告の名古屋繊維取引所での原告取引の商品と同一商品の売・買数量の各総量がほぼ同数になっている場合があることは認めるが、その余は否認する。

売・買の各判断は異なった相場感を有する各顧客が自らの判断で決定するものであり、また、取引員である会社は業界の規制の範囲内(当該限月ごとの総建玉の一〇パーセントまたは一〇〇枚を越えない範囲内)で自己の玉を建てることも許されており、会社と取引所間の帳尻差金の決済の煩雑を避けるため自己玉をもって売・買の玉数を一致させることがあるから、右の被告の認めた事実のような事態の起こることはなんら不自然ではなく、この事実から被告が向い玉をしていることを推認することはできない。

また、向い玉自体これを一般的に違法なものであるということはできないことについて以下のとおり主張する。

取引員は、各取引所の会員のうち、商品市場における売買取引の委託を受けるについて、主務大臣の許可を得たものであるから、当然、商品市場において自己売買をする権利を有する。

したがって、取引員は、自ら商品市場において売買取引を行うこともでき、顧客から委託を受けて売買することもできる。一般に、前者を自己売買・自己玉、後者を委託売買・委託玉と称している。

右の自己玉のうち、委託玉とポジションが対応しているもの、たとえば委託玉が買建玉である場合、同日、同場節の自己玉が売建玉であれば、その自己玉のことを俗に「向い玉」と呼んでいるのである。この場合委託玉の買注文と取引員の売注文とは、取引所内で相互に相手方となって成立するものではない。委託玉(仮に原告分)の買注文は、他の取引員の委託玉、他の取引員の自己玉の各買注文とともに、商品市場における不特定多数の「買集団」に入り、取引員(仮に被告分)の売注文は、他の取引員の委託玉、他の取引員の自己玉の各売注文とともに、商品市場における不特定多数の「売集団」に入り、その結果、両集団の売買数量が一致したときに、各節の約定値段が取引所において成立するのである。

したがって、「向い玉」について、取引員が委託者の相手方となって売買を成立させるものであるから、実質的には市場外において売買を成立させる呑み行為と同様に両者の間に利益相反を生じさせるものであると理解することは根本的に誤っている。

それゆえ、仮に将来の相場の変動により、取引員(仮に被告)がいわゆる向い玉から利益を得ることがあったとしても、それは商品市場において成立した不特定の相手方から利益をえたものであって、当該委託者(仮に原告)から利益をえたものではない。

すなわち、向い玉の利益と顧客の損害との間には因果関係はないのである。顧客は自己の判断でいつでも自己の建玉を手仕舞うことができ、その場合、取引員は向い玉を同時に手仕舞う必要は全くない。取引員は取引員独自の判断で、適宜これを手仕舞いすればよいのであり、その結果生じる損益と顧客の損益との間には、何らの因果関係も利益相反関係もない。向い玉を建てることは、呑み行為と異なり、両者間に利益相反関係を生じさせるものではないのである。

10  同3(四)の原告の主張は争う。

第三証拠

本件訴訟記録中の証拠関係目録記載のとおりであるからこれを引用する。

理由

一  まず、被告の本案前の主張について判断する。

1  原本の存在及び成立に争いのない甲第一号証、成立に争いのない乙第一、第二、第一一号証、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる同第一四号証、証人E、同Iの各証言(ただし証人Iの証言については後記の採用しない部分を除く。)及び原告本人尋問の結果(第一回)によると、原告は、本件先物取引の行われた際及び取引終了後に被告の取引方法に対し種々の不満を抱いていたが、右取引終了の直後で本訴提起前の昭和五八年二月ころに被告会社の取引方法に問題がある旨の新聞記事を見たことを契機として被告本社管理部に対し苦情を申し立てたこと、その結果同月下旬に同管理部長のIが原告方を訪れ、原告とI間に話合がなされたこと、右席上で原告は本訴の争点となっている被告の取引の具体的な問題点のいくつかをIに指摘し、誠意を示さないなら裁判も考えている旨告げたこと、これに対しIが本社に話を持ち帰って検討した結果原告に対し電話で「補償は一銭も出せない。逆に訴訟を起こす用意がある。しかし、あなたも困っているだろうから、少しでもほしいのなら、窮状を手紙に書いて送ってくれ。そうでなければ一銭も出せない。」と連絡し、その結果原告が被告あてに甲第一号証の手紙(同月二八日付)を書いたこと、金額については当初五〇万円との話もあったが、最終的に六〇万円に決まったこと、同年三月一〇日に被告社員が原告方を訪れ、原告が、被告側で準備してきた文案のとおりに念書(乙第一号証)を作成し、被告から六〇万円を受け取って領収書(乙第二号証)を交付したこと、右念書には「……和解金として六〇万円を受けとる事により全て納得致しました。今後貴社及びいかなる機関に対しても異議の申し立ては一切致しません……」との文言があり、原告もこの時点では、Iが被告に働きかけてくれたことにより金銭を受け取ることができたものと考えてこれを評価し、金額についても、一切の異議申立をしないことについても一応納得していたこと、ところがその後原告代理人を含む浜松在住の三名の弁護士が商品取引所法一二三条に基づき被告の営業許可取消を行うことを通産省に求める申立をしたとの記事が新聞に掲載されたことから原告は他にも多数の被害者が出ているのであれば被告の取引方法の違法は明らかであると考えて原告代理人と相談し本訴を提起したことがそれぞれ認められる。

証人Iの証言中右認定に反する供述部分はこれを採用することができない。

2  右認定事実によると、原告は本件紛争の実質を一応理解し、これについて法的手続きをとることが可能であることをも一応認識したうえで、前記念書を作成し被告から六〇万円を受け取ったものとみるほかないから、Iの原告への対応に若干穏当を欠く部分があったことを考慮に入れても、一応昭和五八年三月一〇日の時点で当事者間に本件紛争についての和解及び不起訴の合意がなされた事実はこれを否定することができない。

しかし、一方、もし被告従業員に原告の主張するような違法な行為があり、その結果原告がその主張する額の損害を被ったとするならば、過失相殺を考慮に入れても前記六〇万円は本件紛争を解決するための和解金としてはあまりに小額であることは明白であり、また原告本人尋問の結果(第一、二回)によると、原告は右和解の当時和光商事から自己の居住する土地家屋を担保に元金七〇〇万円の借入をしており、手持ちの預金等も失って窮迫した事情にあったこと、また原告は本件紛争について法的手続をとりうる可能性は認識していたものの、先物取引の実態、方法についての詳しい知識もなく、法的紛争の経験も全くなかったことがそれぞれ認められ、これらの事情及び前記1に認定した事実を総合して考えると、前記の和解及びこれと不可分一体になされた不起訴の合意は、いずれも被告が原告の窮迫、無経験に乗じて不当の利を得るものと認めるのが相当であるから公序良俗に違反して無効というべきである。

二  請求原因1の事実のうち、原告が被告に委託して本件先物取引を行い、委託証拠金八〇二万六二〇〇円を預託して全額を手数料及び差損金に充当されたこと及び原告がその後被告から六〇万円の金員の交付を受けたことはいずれも当事者間に争いがない。

右金員交付の趣旨については、一に認定したとおり本件紛争についての和解金と認められるが、これは右和解が無効であることから原告に保有の根拠がなくなったものである。しかし、いずれにせよ原告は本訴において認定さるべき損害額から右金員が控除されることを求めているから、この点について問題は存在しない。

三  成立に争いのない甲第四号証の一ないし一八、乙第三、第四号証、第六号証の一ないし四、証人Eの証言及び原告本人尋問の結果(第二回)によると、請求原因2の各事実のうち当事者間に争いのない事実を除いたその余の事実並びに原告はタイル職でこれまで先物取引あるいはこれに類する取引の経験を全く有しない者であったこと及び原告がすべての取引を打ち切った日の翌日である昭和五八年二月八日の午前中にEがDから電話で「相場で損した分は相場で取り返すんだ。こちらの方でお金は都合つけてあげるからあとで清算すればよい。」等と二時間くらいにわたって執拗にさらに取引を継続することを勧められたが固くこれを断った事実をそれぞれ認めることができる。

証人Dの証言中以上の認定に反する供述部分は、単純に応答すれば足りるところを多言を費して述べたり、趣旨が不明確であったり、反対尋問に対し正面から答えずあいまいな答弁をくり返したり沈黙したりしている部分がかなり多く、また、前掲の証人の証言及び本人尋問の結果に照らし、信用できない。

四  右三に認定した事実及び請求原因1、2のうち当事者間に争いのない事実を検討すると、被告従業員らの行為には以下のような問題(違法不当な点)がある。

1  取締法規違反

(一)  原告らに対し、利益を生じることが確実であると誤解させるようなかなり断定的な説明をして取引を勧めている(請求原因2の(一)及び(二)(1))(商品取引所法九四条一号、九六条、受託契約準則一七条一号)。

(二)  昭和五七年一〇月三〇日、同五八年一月一四日、同月二四日、同月二七日、同年二月二日の各取引(一覧表2、8、9)はいずれも原告の指示を受けず、事後的に報告を行っただけの無断取引である(請求原因2(二)(2))(同法九四条三号、九六条、同準則一八条一・二号)。

2  その他取引所の内部的規制(成立に争いのない甲第七号証参照)の違反及び不相当行為

(一)  原告に対して不動産を担保に高利金融業者から融資を受けて取引(それも必ずしも必要とは考えられない両建)を行うよう強く勧め、原告がこれを承諾するとD自ら和光商事に連絡をとり、二回にわたって原告に対し融資のあっせんを行っている(請求原因2(二)(3))。

(二)  被告従業員らの勧めにより、同一商品について同一限月(昭和五七年一一月五日ないし一六日、同月二七日ないし同年一二月二日、同月二二日ないし昭和五八年一月一二日)あるいは一月違いの限月(同月一四日ないし二四日)で短期間に合計四回もの両建が行われたり解消されたりしており、この結果原告の損勘定に対する感覚を誤らせ、また多額の手数料を原告から収取している(請求原因2(二)(3))。

(三)  取引経験のない原告に対し、その焦りにつけ込んで、わずか三か月余の間に、繁雑に多数・多額の建玉ないし手仕舞をするよう勧め、多額の手数料を収取している(請求原因1、2(二)(4))。

(四)  意図的に原告に対して多数の従業員が交代で応待し、それぞれが異なった指示、示唆を与えて混乱させ、あるいは、不在を理由として、原告の指定する従業員に応答させない等している(請求原因2(二)(5))。

3  なお、原告は、請求原因3(三)でいわゆる向い玉について主張しているので以下これについて判断する。

被告の主張するとおり、一定の限度において取引員たる会社がいわゆる向い玉を業界の規制の範囲内(請求原因に対する認否9)で建てることは、そのことのみでは違法となるものではない。しかし、もし原告主張のように、被告が顧客の注文を取り次ぐと同時に常にこれと対応する向い玉を自己玉として建て、かつ顧客を操縦し、これに利益が生じても現金を渡さずに新たに委託証拠金として預託させ、最終的に顧客の損失が決定的となるまで取引を継続させるならば被告は向い玉によって確実に利益を得ることができるのであって、このような一連の事実が認められる場合は、これは被告の故意に基づく原告に対する不法行為となるであろう。

本件においては、この点に関する証拠として成立に争いのない甲第一一ないし第一三号証の各一、二、第一五号証及び原告本人尋問の結果(第二回)があり、これらは被告が前記のような意図をもって原告の取引に対応した向い玉を行っていたことを疑わせるものではあるが、甲第一一ないし第一三号証の各二はいずれも被告全体の取引量を示したもので被告浜松支店のみの取引量は不明であり、かつ、甲第一二、第一三号証の各一、二はいずれも別件に関する照会と回答であり、また、成立に争いのない乙第一三号証の一ないし一九に照らしても、右のような原告の立証はなお一般的にすぎ、原告の本件先物取引に関して被告が原告主張のような違法行為(向い玉)を行ったことについて立証責任を尽くしたものということはできない。

五  原本の存在及び成立に争いのない甲第二、第六、第一〇号証、写の成立には争いがなく、弁論の全趣旨によって原本の存在及びその真正な成立が認められる甲第八号証の一、二及び成立に争いのない甲第九号証によると、被告浜松支店従業員らは本件以外にも顧客との間に少なくとも数件の紛争を発生させており、また、そこにおいて主張されている同従業員らの行為の態様は、右三において認定し、右四の1、2において問題点を指摘した行為の態様と酷似していることが認められる。

右はごく一般的な立証にすぎないが、少なくとも本件先物取引前後の被告浜松支店従業員らの行為には相当性の範囲を越えるものが多かった可能性が高いことは右に認定した事実から推認されるところである。

六  前記三、四の1、2及び五によると、本件先物取引の経過には被告従業員らの種々の違法行為があり、同人らは、その結果原告にその主張する損失を被らせたものということができる。

すなわち、本件においては被告従業員らには取引の当初から原告に対し損害を被らせることについての故意ないし重大な過失があったというべきであり、同人らの行為を分断して特定の取引に関連した行為のみを不法行為としてとらえねばならぬような特段の事情はなく、同人らの一連の行為を全体として原告に対する不法行為ととらえ、これにより原告にその主張する手数料及び差損金の合計八〇二万六二〇〇円の損害を生じさせたと考えるのが相当である。

右従業員らの行為が被告の事業の執行につきなされたものであることは明らかであるから、被告はその使用者として、原告の被った右の損害を賠償すべき義務があるというべきである。

七1  一方、前記三に認定した事実及び請求原因1、2のうち当事者間に争いのない事実を検討すると、原告には、右損害の発生、増大について以下のような過失があったものというべきである。

(一)  原告は取引を初めるにあたり、被告従業員らから先物取引の投機性を明示した書面を交付されており、また、これを理解する能力も有していたのに、右従業員らの確実に利益が生ずるとの言葉を安易に信じている。

(二)  高利金融業者から借入を行ってまで先物取引を行うことが危険であることは明らかであるのに、被告従業員らの勧めに従って多額の借入を行い、また、無意味な両建や反復売買を、その意味をよく理解しないまま、同じく被告従業員らの示唆するままにそれに従って行っている場合がある。

(三)  より一般的には、原告は、被告従業員らが信用を置けないような言動、行動をしていることに早くから気づいていたのであるから、同人らを警戒し、自己の判断に従って行動すべきであったのにこれを怠った面がある。

2  右のような原告の過失に鑑みると、本件賠償額の算定にあたっては、前記の原告の損害に三割の過失相殺をするのが相当である。

よって、被告によって賠償されるべき原告の損害額は五六一万八三四〇円となる。

八  以上によると、原告の本訴請求は不法行為に基づき被告に対し前記の損害額から原告の自認する六〇万円の利得を控除した五〇一万八三四〇円及びこれに対する不法行為の後であり本訴状送達の日の翌日である昭和五八年六月二六日から支払いずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は失当であるからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条本文を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 浅香恒久 裁判官 安倍晴彦 裁判官 瀬木比呂志)

〈以下省略〉

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